バイオメンター動物病院
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タンパク質量と問題行動の関係


生食で犬が攻撃的になるのは嘘である、のは私達や他の生食を推進する専門家達の臨床経験からはっきり言える結論 で、問題行動が改 善したというケースの方が殆どです。

行動心理学の世界で「低タンパク食で犬の攻撃性が減る」という情報が信じられてるという話を生食を推薦するドッ グビヘイビアリス トの方から聞きました。

この情報は、動物臨床行動学の専門家で行動治療に携わっている人物による論文が元となっている様ですが、論文の 参考文献調べる限 り、この低タンパク食に関連する情報は正確性に欠けると言えます。

また生食が、この低タンパク食に反するメニューだと思っている行動専門家も多いようで頭が痛いです。

日本語論文の参考文献となっている英文の研究内容も確認しないまま、多くの行動専門家が「「低タンパク食で攻撃 性が減る」という 事を現場で発言していることに驚き、「低タンパク食」という言葉をどう解釈し、どんな食事をアドバイスしているのか疑 問であり、この一人歩きした情報で「行動問題への治療食」への誤解を招くことを懸念し、事実を調べその内容を書 くことにしまし た。

この発言の元となっていると思われる日本語による論文と、その中で使われる三件の英語による参考文献内容を元に 話をしたいと思い ます。

▶︎日本語論文
 以下にある三つの英語論文を参考に書かれている内容ですが、疑問に思う点は論文の中で有名会社2社 のドライフード三 種が問題行動の療法食として記載されていることです。論文作成費用を助成した企業がこの2社だったのか?と思わせる様な内容だ。

最近の医学論文は結論や結果が決められており、それにあう研究デザインが作成されるケースが多く、信憑性に欠け る論文が多い様に 感じる。

🔸参考文献1
11匹のドミナント攻撃行動、11匹の縄張り性攻撃行動、11匹の多動性行動を示す犬達に、高タンパク食と低タ ンパク食、更にそ れにトリプトファンを追加した四種類の食事を与え、ドミナント攻撃行動、縄張り性攻撃行動、恐怖感、多多動性行動、興奮性行動に 関する行動スコア比較を行った研究

🔺疑問 1
行動専門家でない飼主にスコア付けを行わせたものは研究の判断材料にしている点

使われた33匹の犬達は、既に行動問題を理由に大学病院で治療中だった犬達で、問題行動の有無は飼主がつけたス コア表が判断材料 に使われた。

行動専門家ではない飼主によるスコアつけは信憑性に欠ける。なぜなら犬の自然な行動を人が問題行動と認知する ケー ス、また犬の心理への不理解による人の行動が、犬の問題行動の原因である事例は多く、犬の問題行動とは「人間と犬の相互関係で起 こる事」であるため、飼主だけの見解は偏った診断になり得るためだ。

🔺疑問2
四種類の餌を各餌10日間摂取させた研究デザインだが、低タンパク質食と高タンパク質食の食事内容に違いがあり 過ぎる。

●高タンパク質食には2倍近い糖質が与えられている
コーンスターチ量(糖分量)
*低タンパク質餌:155gr/kg体重
*高タンパク質餌:296gr/kg

体重 子供の行動問題へのホリスティックアプローチでも有名な様に、過剰な糖分摂取は多動性障害や’キレる’という行動に影響を与える と言われる。現に、私達の診療所でも糖質の多いフードから生食に移行させたことで、多動行動や攻撃行動が軽減し たケースが大変多 い。

糖質の過剰摂取で血糖値が急激に上昇し、過剰なインスリン分泌が起こり、その大量のインスリンの作用によって血 糖値が一気に下が る。下がり過ぎた血糖値で、体は正常な血糖値の状態を維持するために血糖値を上昇させる反応を起こす。急降下した血糖値を正常範 囲まで戻す時に働く臓器が副腎で、過剰分泌されるのがストレスホルモンのアドレンリンである。

慢性的なアドレナリン過剰分泌よる副作用
・動悸
・不安
・イライラ
・恐怖心
・怒り
・睡眠障害
・免疫低下
・自律神経失調症

つまり過剰な糖質摂取で血糖値が大きく変動することで、精神状態にも影響を及ぼし、それが問題行動として出易く なる。特に肉食で ある犬達は糖質分解が不得意であるため、その影響は人間よりも遥かに高いと言える。

高タンパク質食による行動スコアが悪かったのは過剰糖質摂取が原因である可能性が高い。

●高タンパク質食に含まれ動物性脂肪分が低タンパク質食よりも少ない
動物性脂肪分量
*低タンパク質餌:175gr/kg体重
*高タンパク質餌:111gr/kg体重

認知、思考、記憶、行動を司る脳の60%は脂肪であり、良質な脂肪摂取が脳の健康に欠かせない。また行動にも関 係してくるホルモ ンの材料も脂肪である事実から、脂肪摂取が十分でなかった「高タンパク質食」摂取中に、行動に影響を与える可能性は大きい。

🔺疑問3
「ドミナント攻撃行動」は、飼主への唸り声、唇を持ち上げる、脅迫する、噛み付くなどと言う行為を対象としてお り、恐怖性・防御 性攻撃行動との区別がつけられていない点。

●ドミナントであると認識するのか、その物差しは飼主の心理状態や、犬の心理への飼主の知識と理解、またコミュ ニケーション術に よって大きく変わってくるため、既に犬とのコミュニケーションに支障をきたしている飼主の主観的なスコアは信憑性に欠ける。

🔺疑問4
四種類の食事内容に大きな差があるため、犬の食事への嗜好が変わり食関連防御行動に変化する可能性を考慮されて ない。

 🔺疑問5
研究の結果には「いずれの食事療法においても、3つのグループの行動には有意な変化は検出されなかった。 」と明記してり、食事のタンパク質量が行動に影響を及ぼすという結果には繋がってない故、この研究を元に「低タンパク食で犬の攻撃性が減る」という発言を 行うことはできな い。

🔺疑問6
研究の結論と臨床的関連性には自己の研究結果に反する無責任な事が書かれてある。

書かれた内容
『ドミナント攻撃性が高い犬の場合、高タンパク食にトリプトファンを追加するか、低タンパク食に変更することで 攻撃性が低下する 可能性がある。縄張り攻撃性を持つ犬の場合は低タンパク食にトリプトファンを補給がすることで攻撃性を減らすのに役立つかもしれ ません。』

評価基準となった最終行動スコアを見る限り「いずれの食事療法においても、3つのグループの行動には有意な変化 は検出されなかっ た。」と解釈するのが正しい。 現に、「可能性がある」「役立つかもしれない」という表現が非常に曖昧で断定できない結論であることを示している。

🔺疑問7
評価基準行動スコア全体像の詳しい説明がない。

 評価基準行動スコアから分かること
● 優位性攻撃行動スコアは、飼主への反応を基準につけられており、人の心理や行動が変わることで、犬のドミナ ントな行動に変化 が出るケースが多いため、主観的な飼主のスコアには疑問を抱く。何を持ってドミナントであると認識するのか、その度合いは飼主の 心理状態や犬の心理への知識と理解、コミュニケーション術によって大きく変わってくるものだから信憑性に欠け る。また四種類の食 事内容に大きな誤差があるため、犬の食事への嗜好度が変わり、食関連で人が言うドミナントな攻撃性が変化するケースは多い。

● 縄張り攻撃性スコアに関しては、トリプトファンなしの高タンパク食の方が、トリプトファンなしの低タンパク 食よりも行動スコ アは良好であった。

● ドミナント攻撃行動スコアに関しては高タンパク+トリプトファン食のが全ての食事療法の中で最良スコアで あった。

● 恐怖感、多動行動、興奮行動に関してもスコア的には高タンパク質食の方が良好な数値であり。

🔺疑問8
低タンパク質の治療を行う場合は必ず(Moet) 獣医の管理のもとで行う注意事項を書いてあり、成長期の犬と妊娠中の犬には絶対に行ってはいけない治療だと明記しているが、この研究結果をもとに、犬の行 動学方面で無責任 な「低タンパク食」のアドバイスが出されている事に不安を感じるのは私達だけだろうか?

🔸参考文献2
この試験のデザインはまだ参考文献1よりもまとで、両グループに同じ食事内容を与えタンパク量だけ変えているだ ケダが、結果には 「低タンパク質による行動問題への治療は使えない」とはっきりと結論つけしている。

使われたタンパク質源は鶏粉だが、もちろん、犬の食事として使うには粗末な原材料でありアミノ酸なども殆ど揃っ てないはずだ。質 も、生食で得られるタンパク質とは比べる事ができないほど質の悪い物であり、その身体への悪影響も考慮されてない。

🔸参考文献3
非常にレベルの低い内容で、研究というよりも臨床獣医の日記のような内容である。

🔺 疑問1
英 文を元に書かれた日本語論文の内容が事実と異なることが多い。

 ●日本の記事に使われていた内容
「7頭の攻撃 的なゴールデン・レトリーバーに低タンパク食(15~ 18%)を与え、うち3頭は変化なし、4頭は直ぐに攻撃性が減少(うちの2頭はその後再発)したという解釈で低タンパク食を推薦する」

 実際の内容
「1,000件の問題行動を持つ犬達から40ケースのゴールデンレトリーバだけを選び、更にそのうちの24ケー スを研究材料とし たが、そのうちの8匹は安楽死や悪化、また改善による使用されなかった。

残りの11匹に「2〜3分間軽く加熱された、貧弱なタンパク質源の結合組織を全て取いた、子羊の胸肉や魚や鶏肉 などの他の白身の 肉を主な肉の供給源とした良質なたんぱく質源だけを使った(成分表で全体の15~18%がたんぱく質量になるメニュー)食事に切 り替え臨床研究を行なった結果、そのうちの7匹に改善が見られた。

しかし、7匹のうち1匹は悪化し、2匹は飼主との交流が途絶え、1匹は安楽死させられており、最終的には11匹 のうち3匹だけが 改善したのかもしれない程度の評価になるが、原文内容はその数値も経過もはっきりとは述べていない。

🔺疑問2
この研究で使われた行動治療食が生の動物性素材を二、三分加熱するという、いわば「自家製手作り食」であるあ り、生食を推薦し臨 床経験も長い私達にとっては、成分全体の15〜18%がタンパク質であるのは「標準値」であることを、日本語論文は語ってない。

私達も診療所で販売している、野菜や穀物を含まない生食総合栄養食に含まれるタンパク質量と同じであることを付 け加えたい。

🔺疑問3
使われた24匹の62%の犬達が慢性下痢症状を抱えている子であったことが日本語論文には書かれていない。 下痢および下痢に伴う電解質不足が犬の全体的な生理機能に影響を与えそれが行動上の課題として影響を及ぼすとあるが、そういった 全体像が伝えられない。

🔺疑問4
日本語論文の事実を伝えない無責任な姿勢 健康問題を抱えることが問題行動に繋がるのは臨床の現場ではよく見るケースであり、英文の原文には問題行動を持つ犬には、「自家 製の」低タンパク質に切り替えることを推薦しているが、タンパク質の量が標準値であり、軽く調理された生の動物 性素材を使ってい るのでタンパク質の質もフードに含まれる様な悪質なタンパク質は比べることのできないほど良質であることが分かり、最終的にはタ ンパク質の量ではなく質の問題を伝えたい内容だった。

参考文献として使うには、研究デザインも乏しく、非常に専門性に欠ける臨床経験談程度のレベルである。
「低 タンパク質食」という言葉だけが一人歩きし、原文を全く理解しない行動専門家によって現場で間違ったアドバイスが出されているの ではないかと懸念する。日 本語論文で書かれている内容も原文の事実とは異なる内容であるのが不思議だ。

最後に私達から!
問題行動の治療にサプリとしてトリプトファンを加える点に関しては賛成できるとしても、犬の行動心理専門家が上 記のような文献類 をもとに、「低タンパク食で犬の攻撃性が減る」」と助言する事に大きな疑問を感じます。

「低タンパク食」という助言が出た場合には、具体的に何を意味しているのか具体的な食事の内容やその意図を専門 家に確り確めるよ うにして下さい。

もし、粗末な動物性素材が使われ、多くの炭水化物が含まれる低タンパク食ドライフードを意味しているのであれ ば、根拠のない間 違った助言であると言えますので要注意です。



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