バイオメンター動物病院
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少食犬の経験話


チョコレートジャックラッセルの逞が一歳と二歳になった時のお話、少食犬に関する内容です。

一歳になった時
1.8kgだった体重も6.9kgになり、最近は筋肉モリモリです。実を言うと成長した逞を見てホッとしてます。家族になった当初から少食で、元気はある ので「新しい家に慣れたら犬らしい食欲が出るだろう」と思っていましたが、1ヶ月経っても、2ヶ月経っても少食(体重の1%程度)であるのは変わらず仕舞 い。健康な成犬であれは、数日断食を試みるでしょうが、成長期にある子犬にはそうもいきません。診療所にも「子犬が食べない」という相談を受ける事が多い ので、逞との経験で、細かい詳細までアイデアを提案できるようになり苦労しましたが、勉強になりました。

こういったケースではまず最初に、身体的な問題や疾病を抱えていないか?という疑問を解消する必要があります。体重増加がみられない、減少している、病的 な印象を与える、といった場合には、専門家の診断を受けられる事をお勧めします。また少食の超小型犬で起こりやすい、糖新生機能の未発達からくる低血糖症 に関する知識もしっかり身につけておくと役に立ちます。

逞のケースでは、少食でも大変活発で、体重も微量ながら増加してましたので、身体的な大きな問題は抱えいないという診断でした。敢えて言えば、生まれつき 「ノロマ」な体質だった事です。母犬の飼い主も「行動が遅いノロマな子だから名前はDieselが似合っている」と言っていたくらいです。そのノロマであ る事に惹かれ逞を選んだのですが。

下記する内容は、あくまで私達が逞のケースで自問自答した一例ですので、家庭内でその子に合った方法を見つける事が大事です。

    1.    離乳の有無
母犬の飼い主さんが素人さんで、逞は完全離乳ができていないことを後から知りましたので、離乳期を再経験させるためにヤギミルクに抗体入り初乳のコロスト ラムを入れて哺乳期を延長させました。ヤギミルクには乳糖が入ってますので、低血糖症対策にもなります。体重が増え始めたのを確認し、離乳食である生食 ピュレーを併用しました。生後3週目から始めるはずの離乳期を逃したことが、餌に慣れない原因である可能性は大いにあります。また離乳食の内容によって は、その後の食餌にも影響を与える事があります。

    2.    食餌の内容
フードを食べないのは、我儘や甘えで食べ好みをしているのではなく、フードの質が悪く美味しくないからだと思います。フードよりも生肉や手作り食を好むの であれば、迷いなく切り替えて下さい。また、フードを食べ過ぎている場合も、栄養素が足りて無い事が原因で、栄養素を補給し続けるために、異常な量を食べ ている場合もあり、その際もフードの質が良くないという判断です。逞の給与量は平均以下ですが、食べるものは生が多かったので、長い目で見た場合に、ガイ ドライン上の必要栄養量は満たしていたと思います。生食の研究はまだ完全ではなく、生食を与えた場合の消化率や最低必要量も不明です。フードを与えること を基準に出されたガイドライン上にある最低必要栄養量が、果たして生食に適応できるのか?ということも分かってません。この話は別の機会に詳しく書きたい と思います。

    3.    食餌の時間帯
私達は決まった時間に食餌を与える事はしてません。(家で仕事をしているから出来ることですが)給餌時間が一定していない理由は、その時間帯の前に現れる 異常な常同行動の発現を防ぐためでもあり、犬猫が自分で空腹を感知し、体の消化機能を自分で把握できる様になるためです。前回お話した、断食を無理強いし ないという点に繋がります。逞は北斗とは違うお腹の時計を持っており、これは、彼が「ノロマ」な体質であることに関係してます。

    4.    食餌中の環境状態
食 餌中の環境をより魅力的にするために、食欲旺盛な猫達や犬友達と一緒に並んで食事をさせたり、また反対に一人っきりでゆっくり食べさせたりもしました。 また餌用の器への抵抗があるようで、器を変えたり、床に置いてみたり、手で与えたり、床の匂いを嗅いでいる最中に鼻先に置いたり、食べる場所を変えたりし てみました。賛否両論ある話ですが、実は逞は、私が手でトリーツを与える様な感じで食餌をさせる方法が一番よく食べました。手で食べさせるから食べないの よ!と言われそうですが、自分で食べるのを待ちながらストレスを溜めるよりは”普通”じゃなくても食べてくれる方法を選ぶ方がスムーズにいきます。

    5.    環境エンリッチメント
その子に合った環境エンリッチメントは、6にあるストレスを回避することでもあり、精神的な安定を促す要素になります。家が変わる時期のストレスは大きい ですが、環境エンリッチメントが整っていれば、子犬達の適応力は偉大です。ただ、相手が犬や猫であることを忘れず、彼らの生態に合った環境を作ることが大 事です。

    6.    ストレスの有無
逞は活動的な犬ですが、落ち着きがあり自己コントロールが取れているタイプです。他人や他犬を含め、何かに恐怖心を抱く様子も見せず、褒めて伸ばすための 躾方であるポジティブ・レインフォースメント法で育て、休息と運動をバランスよく取る規則正しい生活の中でストレスのない生活が出来ていたと思います。

    7.    行動問題との関連
少食と行動問題との関連をよく言われますが、関心を抱いてもらうために食べないというのは、犬や猫らしくない行動だと思いますが、6にあるストレスも関連 してますし、個人差がありますので、犬の心理学を把握しているドッグビヘイビアリストに相談してみる価値はあるかと思います。

逞の食餌量は、性ホルモンの成長により体重の2%まで安定しましたが、1ヶ月半前に、群れに加わった、同じような遊びのスタイルを持ち、同じようなマイン ドと、同じエネルギーを持った、同種の相棒であるモナミという妹ができた事で増倍しました。遊びや運動量が増え、競争心が増し、逞に合った理想的な生活へ の改善は、私達では与えてあげることの出来なかった最高の治療法です。

二歳になった時
逞の少食はもう有名ですね。二歳になってもバクバク食べることはしません。「絶食でもさせればいつかはお腹が空くだろう」というのが、一般的な意見かもし れませんし、逞に出会う前は私達もそんな(無責任な)アドバイスをしてまし た。実際、成長期の子犬に断食をさせるのはかなり勇気のいることで、飼主の気持ち的にも獣医学的にも先ず不可能と言ってもいいと思います。

また「おやつを 与えすぎだから」という言葉も必ず出てきますが、食べない子犬を抱える家族としては、おやつであっても食べてくれる瞬間があるのであれば、餓死を免れるの では?という思いだというのを初めて知りました。逞の場合も、散歩中や牧場で走り回っている時に摂食意欲が湧いてくるタイプでしたので、散歩中に与える物 を厳選し、必要栄養素となる物を食べさせてます。

食べない原因を探るためには、摂食調節のメカニズムを理解しなくてはいけませんが、人での研究でもまだ未知の世界であり、ホルモンや神経伝達物質なども関 与しており、身体的な原因の他にも精神的な原因が絡む込み入った問題です。食欲の調節には脳の視床下部にある摂食中枢と満腹中枢が関係しています。胃が空 になり収縮した際に摂食中枢が働いて食欲がわき、逆に胃が食べ物で満たされ拡張したり、食べ物が消化され血液中のブドウ糖濃度が最も高くなる時に満腹中枢 に働きかけ摂食を抑えます。摂食中枢を抑制して摂食量を減らし糖や脂肪の代謝を促進させるホルモンがレプチン(「痩せる」という意味のギリシャ語が語源) であり、脂肪細胞から分泌されており、脂肪細胞内の体脂肪が増えると分泌量が高まっていきます。また摂食を促進させる物質が胃から分泌されるグレリンで す。このホルモン分泌に異変があるのかを診断することもできます。

上記のメカニズム以外にもストレスが関係する調節もあり、セロトニン
ノ ルアドレナリン、ドーパミンといった古典的神経伝達物質を含有する神経が脳幹に存在し、視床下部に投射して摂食行動に関与しているということもわかってま す。生体は絶えず変化する外的環境に対応するよう,体内の生理的状態を恒常的に保とうとする機構を有していますが、機構に影響を及ぼす物理的,精神的事象 がストレスであり、ストレスにより下垂体前葉からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)の分泌が促され,副腎皮質からストレスホルモンと言われるコルチゾール を分泌させる仕組みになってます。

人での研究では、拒食の場合このコルチゾールの血中濃度が高いということがわかっており、コルチゾールは全身の細胞にお いてアミノ酸 や脂質を急速に動員し,エネルギーやグルコースを産生しますので、空腹感が抑えられるとう仕組みです。また逆に血中コルチゾールの低下により食欲不振に陥 るケースも多いです。その血中のコルチゾール値を測定することによって
ストレスを受けているかどうかを判断することがもできますが、採血 する際の(ストレス)状況なども影響してきますので、精密な診断はなかなか難しいのが現状です。

逞の場合、血中コルチゾール値を含めた全ての血液検査では異常は見られず、行動や活動面でも至って正常だといえ、強いて言えば、生まれた時から他の兄弟犬 に比べて行動を起こすスピードが遅かったということ位ですが、牧場へ行っても散歩をしても疲れ過ぎる様子もなく、運動後の回復も正常でしたので、レプチン やグレリンなどの検査などは行ってませんが、一般的な医学面での原因を突き止められなかったと言えます。運動中であれ摂食意欲が出てくるのは確かでしたの で、運動させながら食餌を与えることが多く、家でもご褒美のような形で直接手から食べさせることで、何とか1日の必要量をキープできてました。普通に食べ てくれる犬をもつ家族にとっては考えられない事かもしれませんが、私達も逞を迎えたことで、少食問題の深刻さを理解しそれに対する考え方が変わりました。

子犬期を何とか乗り越え、次の訪れた難関が成犬へと成長するために分泌される男性ホルモンの影響でした。睾丸で分泌される主な男性ホルモンはテストステロ ンと呼ばれるもので、一般的に7ヶ月~1歳くらいになると分泌が活発化し性的に成熟します。このテストステロンの影響でオスの食欲が減少することは臨床現 場でもよく見られる症状であり、逞もやはり最小限だった食事の量がさらに減り始め、拒食症に近い状態に陥りました。こういった症状によく使うのがチェスト ベリーのエキスです。与えないと食べない、与えると食べるという風にこのハーブの効果は明確でした。

さらに食欲促進効果があるビタミンB12とステロイドをホメオパシーのレメディーにした注射も試してみました。逞への効果が明らかに確認できましたが、注 射という犬にとっては嫌な行為でしたのでその後は中断しました。

最終的に成犬となった今は、朝の牧場での活動中にタンパク質が全体量の60%占めるドライフードをご褒美に与え、生食を1日一回にしたことで食事の量は安 定してます。夕方の散歩後、数時間睡眠した後、空腹の度合いがピークになった時間帯(21時頃)に1日分の食餌量を与えるようにしてます。最近では、台所 まで来てお腹が空いた合図を出すようになり、自主的にお皿から食べる事も増えました。

狼 犬のモナミが群に加わった時に驚くほどの量を食べた時期がありましたが、最近は、その競争心も薄れ結局また元の状態に戻りました。しかし全く食べない訳で はないので、食べるときは出来るだけ質の良いタンパク質や脂肪分、ビタミンやミネラルが摂れる様、与えるものを厳選してます。



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