バイオメンター動物病院
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人のトラウマに寄り添う犬


今は犬が人の感情を感じ取る能力に関係する事例です。

深刻な激痛発作を持った雑種犬と飼い主さんが相談に来られました。症状は、切っ掛けも理由もなく突然「全身激痛」が起こり、飼い主さんも体を触れないほど 悲鳴をあげ始めるそうです。発作が起こり、獣医へ駆け込みましたが、診察台に登った時には既に発作は収まっており、どんな検査をしても以上は見つからな かったそうです。その後発作が起こっても、施す治療法もないですが、治療をしなくても何もなかったように正常化するそうです。大学病院で可能な限りの検査 を受けましたが、やはり異常は見つからず、癲癇の発作ではないこともわかってます。予測される疾病への薬剤治療も行いましたが、激痛発作は減る傾向にな く、原因が分からないまま数年途方にくれていたそうです。

私たちの診療所に相談に来られ、まず激痛の発作が起こり始めた頃に遡って頂き、犬と一緒にその後体験してきた思い浮かぶ全ての話をして頂きました。こう いった話を聞く際に、私は自分の身をその犬の中に置く努力をし、この子としてこれまでの体験を再体験するような思いで頭にその姿を描くようにします。

発作が起こり始めたのは、この犬が車に引かれ死ぬ寸前の体験をし、幸い介護の甲斐もあり漸く「完治」した時期から1年後くらいだったそうです。この事故を 目撃した飼い主さんも、大怪我をし血だらけで路上で死にかけている愛犬の姿を目の当たりにし、ご自身もパニックだった状況をお話してくださいました。

その話を聞いて誰もが思うのが「犬の事故に対するトラウマ」PTSD(ポストトラウマティックストレス障害・心的外傷後ストレス障害)ではないでしょう か?この子の場合は事故で受けた痛みが無意識のうちに蘇り、再体験症状として激痛を感じている様な雰囲気です。痛い思いをした場所や物の近くを通ることで 発症することが多く、別の理由で不安や恐怖を感じたことが切っ掛けで再体験症状になるケースもあり、犬のPTSDへの治療はなかなか困難である場合もあり ます。

症状を引き起こすきっかけとなるトリガーがはっきりしているのであれば、それを身近に置きながらもポジティブ体験を積み重ねていくことで解消するケースが 多いですが、この犬の場合、事故にあったトラックや道路側などを通っても全く反応せず、恐怖を抱いている雰囲気もなく、事故以前の普通の行動を取っていた そうです。また激痛が起こる切っ掛けも、恐怖心があったり不安だったりする仕草もなく突然発症するという話でした。日頃の生活の中でも、怯えている様子な どは一切なく、事故のトラウマに悩まされている様子は全くないというのが飼い主さんが受けた印象でした。

話を聞いている間この犬の様子を観察していると、いつも飼い主さんの顔をじっと凝視している姿がありました。飼い主さんが事故当時の体験を話している間 も、その口調に合わせて犬の感情の変化を捕らえることができました。もしかしたらこの犬は、自分が抱えるトラウマに悩まされているというよりは、愛する飼 い主の事故へのトラウマに反応しているのではないかと考えました。

「人の心に寄り添う」能力を持った犬だからこそ有り得る事で、飼い主が抱えるトラウマがトリガーとなり再体験症状を起こしているのかもしれません。飼い主 さんにその話をしてみると大変驚かれましたが、無意識の中にあるトラウマ感情の存在をお話し、ご本人が気がつかない間に犬がその感情をキャッチしている可 能性を伝えました。藁にもすがる思いでおられましたので、トラウマセラピーを受けてみるという話でした。

その半年後、自分抱えていた事故へのトラウマを解消した時点で、あの原因不明だった激痛発作が完治したという素晴らしいニュースを伝えるため診療所にい らっしゃいました。動物達が、愛情を感じている人間の感情に身を持って反応している事実を裏つけるような実際に起こったお話ですが、動物たちは人間のエネ ルギーや感情をキャッチする能力を持ってますので、不思議な話ではないです。

あるドッグビヘイビアリストの話では、犬が、起こった出来事でトラウマを抱える原因の一つに、その場にいた人間の行動や感情などが大きな影響を与えている ケースが多いということです。犬と生活するご家族は、犬の心理を考慮するため、どういった(困った)緊急場面でどの様な行動を取ったらいいのか事前に学習 することで、愛犬たちを心理的に守ることができるのではないかと思いますので、愛犬が問題行動を抱えていなくても、犬の心理に基づいた指導をされる専門家 のお話をお聞きなる事をお勧めします。

ホリスティック獣医療とは、医学的な視点から動物が抱える疾病をアプローチするだけではなく、こういった心理的な面での影響も含めた全ての視点から治療法 を見出すことが重要です。動物たちも人と同じように感情をもった生き物です。心理的な面での蟠りが身体的な症状として現れる可能性があることも人間と同じ だと言えます。


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